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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1174号 判決 1948年12月24日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

辯護人小沢茂同森長英三郎の各上告趣意は何れも末尾添附別紙記載の通りでありこれに對する當裁判所の判斷は次の如くである。

同第三點に付て。

適正價格が何程であるかわからなければ、被告人の爲した賣却が不當價格のものなりや否やを判斷することが出來ないのは勿論だから、裁判所は適正價格が何程なりやの審査をしなければならないことはいう迄もない。しかし判文に被告人の犯罪行爲を判示するに當っては必ずしも適正價格が何程であったかを明示する必要はない。被告人の賣った價格がいくらであったか、及びその価格が不當であった旨を判示すればそれで足りる。そしてその賣却價格が実際不當のものでなければならないことは勿論だが、本件の場合、被告人等の賣却價格が不當高價のものであった事実が原審擧示の證據でわかること前説示の通りであるから、原審の措置に所論の様な違法ありとすることは出來ない。

同第五點に付て。

論旨にも書いてある様に指令部の指令には「帝国政府は…………確固たる統制を設定し及び維持すべき責任を負う」とあるので從來ある統制は其侭これを維持しなければならないという様なことは少しも書かれて居ない。(右、指令に「維持する」というのは前文を受けて制定した統制を維持するという意味であって、從來存する統制を其侭維持するということではない。)、右指令が出てから物價統制令が制定される迄所論の様な日時を經たことは事実である。本統制令の如き法規を制定するには其爲種々面倒な調査をしなければならないことは、想像に難くないのであるし、其他色々準備行爲を要するから、其間所論の様な日時を要したとしても己むを得なかったといえるであろう。其爲め緊急を要しない事項であったのだということは出來ない。司令部の前記の様な指令が出た以上、政府としては直ちに其実行に着手しなければならないのは勿論で、議會の開會を待つことが出來なかったため、一應緊急勅令の方法により、後に、議會の承認を得たのだから手續において何等缺くる處はない。故に該勅令の無効を主張する論旨には左袒出來ない。(辯護人小沢茂の上告趣意第一點に付ての説示に掲記した當裁判所大法廷判決〔編集者註、昭和二二年(れ)第二七九號事件判決〕參照)

尚物價統制令が適憲有効であることは既に當裁判所大法廷の判例とする處であるから當小法廷において審理判決をした。(その他の上告論旨は省略する。)

よって最高裁判所裁判事務處理規則第九條四項刑事訴訟法第四四六條に從い主文の通り判決する。

以上は當小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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